顎変形症
顎変形症(がくへんけいしょう)とは、上顎(上顎骨)や下顎(下顎骨)の骨格的な異常により、咬合(噛み合わせ)や顔貌(フェイスライン)に問題を生じる疾患です。単なる歯並びの問題ではなく、骨格レベルでの不正咬合が関与しているため、通常の歯列矯正(ワイヤー矯正やマウスピース矯正)のみでは改善が難しく、外科矯正(顎矯正手術)が必要になる場合があります。
本ページでは、顎変形症の種類、症状、原因、診断方法、治療の流れ、リスクや注意点について詳しく解説します。
顎変形症の種類
顎変形症には、上顎・下顎の位置異常や成長異常により、さまざまな不正咬合を引き起こすタイプがあります。
1. 下顎前突(受け口)
- 特徴:下顎が前方に突出し、上顎よりも前に出ている状態
- 影響:
- 咀嚼機能の低下(食べ物をしっかり噛めない)
- 発音障害(サ行やタ行の発音が不明瞭になる)
- 顎関節症のリスク増大
2. 上顎前突(出っ歯)
- 特徴:上顎が前方に突出し、前歯が大きく前に出ている状態
- 影響:
- 口が閉じにくく、口呼吸になりやすい
- 唇が乾燥しやすく、口腔内の衛生状態が悪化
- 前歯の衝突リスクが高く、外傷を受けやすい
3. 顔面非対称
- 特徴:左右の顎の成長バランスが崩れ、顔の形が左右非対称になる
- 影響:
- 咬み合わせが一方に偏る
- 顎関節に過度な負担がかかり、痛みや異音が発生
- 美容的な問題(フェイスラインの左右差)
4. 開咬(オープンバイト)
- 特徴:上下の前歯が噛み合わず、開いたままの状態
- 影響:
- 食事の際に前歯で噛み切ることが難しい
- 発音に支障をきたしやすい(特に英語の発音で影響が出やすい)
- 舌癖や口腔習癖(舌を前に押し出す癖)がある場合が多い
顎変形症の原因
顎変形症の発症には、遺伝的要因や環境的要因が関与しています。
1. 遺伝的要因
- 親や祖父母の顔貌や顎の形態を受け継ぐことが多い
- 骨格的な成長パターンに影響を与える
2. 成長発育異常
- 幼少期の顎の成長過程での異常発達
- 上顎または下顎の過成長・成長不足
3. 口腔習癖
- 指しゃぶり(長期にわたると開咬の原因になる)
- 舌の突出癖(舌癖)
- 頬杖をつく習慣(顎の成長バランスが崩れる)
顎変形症の診断方法
顎変形症の診断は、レントゲン撮影やCTスキャンを用いた精密検査によって行われます。
1. セファログラム(側面X線撮影)
- 顎骨の成長バランスや咬合のずれを評価
2. 歯科用CTスキャン
- 顎関節の状態や骨の厚み、形態を詳細に分析
3. 3Dシミュレーション
- 治療後の顎の位置を予測し、術前シミュレーションを実施
顎変形症の治療の流れ
顎変形症の治療は、矯正歯科治療(術前矯正・術後矯正)と外科手術を組み合わせた「外科矯正治療」として行われます。
1. 術前矯正(1~2年)
- 顎の手術を行う前に、歯の位置を正しい位置に整えるために矯正治療を行う
- ワイヤー矯正を使用することが一般的
2. 顎矯正手術
- 全身麻酔下で、顎の骨を移動させる手術を行う
- Le Fort I型骨切り術(上顎骨移動術)や下顎枝矢状分割術(SSRO)などの手術方法が用いられる
3. 術後矯正(6ヶ月~1年)
- 術後の咬合を安定させるための微調整を行う
- リテーナー(保定装置)を装着し、後戻りを防ぐ
顎変形症のリスクと注意点
1. 手術に伴うリスク
- 術後の腫れや内出血が1~2週間持続
- 一時的な神経麻痺(口唇や顎の感覚低下)
- 咬合の違和感や適応期間が必要
2. 治療期間が長い
- 外科矯正は2~3年以上の長期間を要する
3. 健康保険の適用範囲
- 顎変形症と診断され、指定医療機関で治療を受ける場合は健康保険適用
- 単なる審美目的の手術は保険適用外
まとめ
顎変形症は、骨格的な不正咬合を伴う疾患であり、単なる歯列矯正では治療が困難なケースが多いです。外科矯正を行うことで、咬合機能の回復だけでなく、顔貌のバランスも改善されます。
治療を検討される方は、矯正歯科と口腔外科の専門医が連携する医療機関での相談を推奨します。