非抜歯矯正

非抜歯矯正とは、歯を抜かずに歯列を整える矯正治療のことを指します。一般的な矯正治療では、歯のスペース不足により小臼歯(前から4番目・5番目の歯)を抜歯して治療を行うケースがあります。しかし、非抜歯矯正では顎の拡大や歯列弓の調整、歯の傾斜改善、IPR(歯のわずかな削合)などを活用し、歯を抜かずに歯並びを整えます。

本ページでは、非抜歯矯正のメリット・デメリット、適応症例、治療方法の種類、治療の流れ、注意点について詳しく解説します。

非抜歯矯正と抜歯矯正の違い

矯正治療を行う際、抜歯の有無は治療計画を大きく左右する要素です。以下のような基準で、非抜歯矯正が可能かどうかを判断します。

項目 非抜歯矯正 抜歯矯正
適応症例 軽度~中等度の叢生、歯列弓が広い患者 重度の叢生、口元の突出、顎が小さい症例
方法 歯列拡大、歯の傾斜改善、IPR 小臼歯(4番または5番)の抜歯
治療期間 比較的短い(1.5~2.5年) 長くなる傾向(2~3年)
フェイスライン 顎の成長を活かし自然なラインに 口元が引っ込みシャープな印象に
後戻り 適切な保定が必要 比較的安定しやすい

非抜歯矯正は、患者にとって負担が少ない治療方法ですが、適応できる症例には限りがあり、詳細な診断が不可欠です。

非抜歯矯正のメリット・デメリット

メリット

歯を失うリスクがない
→ 健康な歯を残せるため、将来的な咬合維持に有利。

口腔内のバランスが自然に保たれる
→ 抜歯矯正の場合、口元が大きく変化することがあるが、非抜歯矯正では自然なプロファイルを維持しやすい。

治療期間が短縮できる可能性
→ 抜歯後のスペース閉鎖が不要なため、治療期間が短くなる場合がある。

咀嚼機能が保たれる
→ すべての歯を残すことで、食事の際の咀嚼効率を維持できる。

顎の成長を活かした治療が可能(小児矯正)
→ 成長期であれば顎の拡大を促すことでスペースを確保しやすい。

デメリット

適応できる症例が限られる
→ 重度の叢生や口元の突出感が強い症例では、抜歯矯正が必要になる場合がある。

歯列拡大に伴う歯肉退縮のリスク
→ 無理に歯列を広げると、歯肉が下がる可能性があるため、適切な診断が必要。

後戻りのリスクが高い
→ 歯列の安定性が低くなるため、保定を徹底しないと後戻りしやすい。

顎関節への負担が増す場合がある
→ 顎の骨格が小さい場合、歯列を広げることで顎関節に負担がかかることがある。

非抜歯矯正が適応される症例

非抜歯矯正が可能かどうかは、以下の要素によって決まります。

適応可能な症例

  • 軽度~中等度の叢生(ガタガタの歯並び)
  • 上顎前突(軽度な出っ歯)
  • 口元の突出感が少ない
  • 顎の成長が期待できる小児矯正

非適応(抜歯が必要)な症例

  • 重度の叢生(歯の並ぶスペースが極端に不足)
  • 口元が大きく突出している(口ゴボ)
  • 骨格的な不調和が大きい(下顎前突・ガミースマイルなど)

非抜歯矯正の方法

1. 歯列弓の拡大(拡大床・急速拡大装置)

顎の成長を利用して歯列を拡大し、歯が並ぶスペースを確保する。

  • 小児矯正では、拡大床を使用して顎を広げる
  • 成人矯正では、急速拡大装置(RPE)を用いることも

2. 歯の傾斜改善

歯を適切な角度に動かすことで、スペースを確保する方法。

  • 頬側に傾いている歯を正しい軌道に戻す
  • 特に、奥歯の傾斜改善が有効

3. IPR(Interproximal Reduction)

歯と歯の間のエナメル質をわずかに削ることでスペースを作る方法。

  • 0.2mm~0.5mm程度の削合を行う
  • 健康な歯にほとんど影響を与えない

4. アンカースクリューの活用

歯列の拡大が難しい場合、矯正用アンカースクリューを固定源として、効率的に歯を動かすこともある。

非抜歯矯正の流れ

  1. 精密検査と診断(1~2ヶ月)
    • CT撮影、セファロ分析、歯型採取を行い、抜歯が必要か診断
  2. 矯正装置の装着(2~3年)
    • マウスピース矯正(インビザライン)
    • ワイヤー矯正(表側・裏側矯正)
  3. 歯の移動(1.5~2.5年)
    • 拡大装置、IPR、アンカースクリューなどを併用
  4. 保定期間(2~3年)
    • リテーナー(固定式・可撤式)を装着し、後戻りを防ぐ

まとめ

非抜歯矯正は、健康な歯を残しながら歯並びを整えるメリットがある一方で、適応症例が限られ、慎重な診断が求められます。

矯正治療を検討している方は、専門の矯正歯科医と相談し、自分に合った治療計画を立てることが重要です。