保定について

矯正治療によって歯が理想的な位置へ移動した後、その状態を維持するためには保定(ほてい)が必要です。矯正装置を外した直後の歯はまだ不安定であり、何もせずに放置すると「後戻り」と呼ばれる現象が起こり、歯が元の位置に戻ろうとします。これを防ぐために、リテーナー(保定装置)を装着し、歯を安定させる期間が必要になります。

本ページでは、保定の重要性、保定装置の種類、保定期間、後戻りを防ぐためのポイントについて詳しく解説します。

なぜ保定が必要なのか?

矯正治療後、歯並びが一見安定したように見えても、実際には以下の理由により歯が元の位置に戻るリスクがあります。

1. 歯槽骨の再構築が完了していない

矯正治療では、骨のリモデリング(骨吸収と骨形成)の仕組みを利用して歯を動かします。しかし、矯正装置を外した直後は、新しい位置での歯槽骨の再構築が完了していないため、歯が元の位置に戻ろうとする傾向があります。

2. 歯根膜の記憶作用

歯の周囲には歯根膜(しこんまく)と呼ばれる組織があり、矯正治療によって引き伸ばされたり圧縮されたりします。治療後、この歯根膜が元の状態に戻ろうとする力が働くため、後戻りが生じる可能性があります。

3. 口腔周囲筋の影響

舌や頬の筋肉、唇の動きなどが歯並びに影響を与えることがあります。特に、舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)や口呼吸などの悪習癖があると、歯が元の位置に戻りやすくなります。

4. 成長や加齢による歯列の変化

小児矯正の場合、顎の成長に伴い歯の位置が変わることがあります。また、成人でも加齢とともに歯列が狭くなり、歯が動くことがあります。

保定装置(リテーナー)の種類

保定装置(リテーナー)には、固定式と可撤式(取り外し可能)の2種類があります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

固定式リテーナー(フィックスタイプ)

固定式リテーナーは、細いワイヤーを歯の裏側に接着し、常に歯を適切な位置に維持する方法です。

特徴

  • メリット
    • 24時間常に歯を保持できるため、後戻りのリスクが低い
    • 患者の自己管理が不要
  • デメリット
    • ワイヤー部分にプラークが溜まりやすく、清掃が難しい
    • 数年後に外れる可能性があるため、定期的なチェックが必要

適応症例

  • 歯のねじれが強かった症例
  • 重度の叢生(ガタガタの歯並び)があった症例
  • 前歯部の後戻りを防ぎたい場合

可撤式リテーナー(リムーバブルタイプ)

可撤式リテーナーは、患者自身が取り外しできる装置で、就寝時を中心に使用します。

主な種類

1. クリアリテーナー(マウスピース型)

透明なマウスピースタイプの保定装置で、インビザラインを使用した場合の保定装置としても一般的です。

特徴

  • メリット
    • 透明で目立ちにくい
    • 清掃がしやすい
  • デメリット
    • 破損しやすい
    • 毎日の装着時間を守らないと後戻りする
2. ホーレーリテーナー(ワイヤー型)

プラスチック部分とワイヤーで構成された保定装置で、耐久性が高く、長期間使用可能です。

特徴

  • メリット
    • 調整が可能で、長期間使用できる
    • 歯を圧迫しすぎず、比較的快適
  • デメリット
    • ワイヤー部分が見えるため審美性が低い
    • 装着感に違和感を感じることがある

保定期間の目安

保定期間は、一般的に矯正治療期間と同じ程度の長さが必要とされています。

矯正治療期間 保定期間の目安
1年~1年半 1年半~2年
2年~3年 3年~4年
3年以上 半永久的

特に前歯部の叢生(ガタガタの歯並び)を治療した場合、後戻りのリスクが高いため、半永久的にリテーナーを使用することが推奨されることもあります。

後戻りを防ぐためのポイント

1. 指示通りにリテーナーを装着する

矯正歯科医の指示通りにリテーナーを使用しないと、わずか数週間で後戻りが始まることがあります。

2. 定期的に歯科医院でチェックを受ける

リテーナーの状態や歯の動きを確認するため、3ヶ月~6ヶ月ごとに定期検診を受けることが推奨されます。

3. 口腔習癖の改善

舌突出癖、口呼吸、頬杖、爪噛みなどの悪習癖があると、歯並びに影響を与える可能性があるため、意識的に改善する必要があります。

4. 良好な咬合を維持する

咬み合わせが不安定な場合、奥歯の噛み合わせが変化し、歯が動いてしまうことがあります。定期的に歯科医院で咬合のチェックを受けましょう。

まとめ

矯正治療後の保定は、歯の位置を安定させ、後戻りを防ぐために不可欠なプロセスです。固定式リテーナーと可撤式リテーナーの選択肢があり、症例に応じて適切なものを選ぶ必要があります。

また、保定期間は長期にわたり、適切な管理と定期的なチェックが求められます。矯正治療を成功させるためには、保定装置を正しく使用し、歯科医師の指示を守ることが重要です。