IPRとは
IPR(Interproximal Reduction)は、日本語で「隣接面削合(りんせつめんさくごう)」と呼ばれる処置で、歯と歯の間のエナメル質を微量に削ることでスペースを確保し、歯列矯正を効率的に進めるための手法です。
特に、非抜歯矯正を選択する際に有効な手段であり、軽度~中等度の叢生(ガタガタの歯並び)を整えるために用いられます。歯の表面にはエナメル質という硬い層があり、一定の範囲内で削ることで歯の健康を損なわずに矯正治療が可能となります。
本ページでは、IPRの目的、適応症例、具体的な処置の流れ、メリット・デメリット、注意点について詳しく解説します。
IPRの目的と適応症例
IPRの主な目的
- 非抜歯矯正を可能にするためのスペース確保
- 歯の形態を整えてより調和の取れた歯列を形成する
- 矯正治療後の安定性を向上させ、後戻りを防ぐ
IPRが適応される症例
- 軽度~中等度の叢生(ガタガタの歯並び)
- 抜歯をせずに歯列を整えたい場合
- 軽度の上顎前突(出っ歯)
- 前歯を後方に移動するスペースを確保する目的
- 歯の形態が不均一な場合
- 咬み合わせや審美性を整えるために、歯の形を微調整する
- 歯と歯の接触点が強すぎる場合
- 咬合のバランスを調整し、適切な歯列を形成する
IPRの具体的な処置の流れ
IPRは矯正治療の初期段階または治療途中に行われることが多く、以下の流れで実施されます。
1. 精密診断と治療計画の策定
- セファログラム(頭部X線写真)、CT、口腔内スキャナーなどを用いて、必要なIPRの量を計算。
- どの部位にどの程度のスペースが必要かを詳細にシミュレーション。
2. IPRの実施
IPRにはいくつかの方法があり、症例に応じて使い分けられます。
手用ストリップ(ダイヤモンドストリップ)を用いる方法
- 0.1mm~0.5mm程度の微細な削合を行う際に使用。
- 研磨剤を含んだストリップを歯の間に挟み、摩擦によって削る。
- 痛みがほとんどなく、精密な調整が可能。
回転バー(ダイヤモンドバー)を用いる方法
- より多くのスペースが必要な場合に使用。
- 高速回転バーを用いて、隣接面を削る。
- 麻酔は通常不要で、処置時間も短い。
ストリッピングディスク(回転式ディスク)を用いる方法
- 均一な削合が必要な場合に適用。
- 歯の形態を整えながら、精密な削合が可能。
3. 研磨と仕上げ
- 削合した部分を特殊な研磨材で滑らかに仕上げ、歯の健康を維持。
- 削りすぎによる知覚過敏を防ぐため、フッ素塗布を行うこともある。
4. 矯正装置の調整と歯の移動
- IPRによって確保されたスペースを活用し、歯列を適切に移動。
- マウスピース矯正(インビザライン)では、IPRの量に応じたアライナーを作成。
IPRのメリットとデメリット
メリット
- 非抜歯矯正が可能になる
- 抜歯せずに歯並びを整えられるため、治療の選択肢が広がる。
- 治療期間が短縮される場合がある
- 抜歯矯正よりも治療期間が短くなる傾向がある。
- 歯の形態を微調整できる
- 審美性の向上や咬合の最適化が可能。
- 処置の負担が少ない
- 麻酔が不要で、治療後の違和感が少ない。
デメリット
- 削合できる量には限界がある
- 1本あたり0.2mm~0.5mm程度が限度。
- 重度の叢生では十分なスペースを確保できない場合がある。
- 削りすぎると知覚過敏が生じることがある
- 適切な研磨を行わないと、冷たいものがしみることがある。
- 歯のエナメル質の厚みが減少する
- 過度な削合は歯の耐久性に影響を与える可能性がある。
IPRのよくある質問
IPRを行うと虫歯になりやすくなるのか?
適切に研磨を行い、フッ素塗布を実施すれば、虫歯のリスクは大きく上がらない。ただし、歯磨きが不十分だと、歯と歯の間にプラークが溜まりやすくなるため、口腔衛生の管理が重要。
IPRは痛みを伴う処置なのか?
エナメル質には神経がないため、通常は痛みを感じない。麻酔も不要であり、処置後の違和感も少ない。
どのくらいのスペースを確保できるのか?
1本あたり最大で0.5mm程度、両側で1.0mmのスペースを作ることが可能。全体で4~6本の歯に対して行う場合、合計2~4mm程度のスペースを確保できる。
IPRと抜歯矯正のどちらが適しているのか?
軽度の叢生であればIPRで対応可能だが、スペースが大幅に不足している場合は抜歯矯正が必要になる。
まとめ
IPR(Interproximal Reduction)は、歯と歯の間のエナメル質を微量に削ることで矯正治療を効率化する方法であり、特に非抜歯矯正を希望する患者にとって有効な手段となる。
適応症例を正しく見極め、適切な量の削合を行うことで、審美性・機能性を両立させた歯列矯正が可能となる。
IPRを検討している方は、担当の矯正歯科医と十分に相談し、自分に最適な治療法を選択することが重要である。