口腔筋機能療法(マイオブレース)
口腔筋機能療法(MFT: Myofunctional Therapy)は、舌や口唇、頬の筋肉の機能を改善し、不正咬合の原因となる悪習癖を取り除くためのトレーニングです。その中でも「マイオブレース(Myobrace)」は、オーストラリアで開発された筋機能矯正装置であり、歯並びや顎の成長を正しく導くために、筋機能トレーニングと併用する治療法として広く普及しています。
マイオブレースは特に小児期の早期矯正(予防矯正)に有効とされ、成長期における歯列や顎の発育を正常な方向へ導くことを目的としています。本ページでは、口腔筋機能療法(MFT)とマイオブレースの特徴、適応症例、治療の流れ、メリット・デメリット、治療期間、注意点について詳しく解説します。
口腔筋機能療法(MFT)とは
1. 口腔筋機能療法(MFT)の基本概念
MFT(Myofunctional Therapy)は、口腔周囲の筋肉バランスを改善することで、歯並びや噛み合わせを整える治療法です。不正咬合の多くは、遺伝的要因だけでなく、口腔周囲の筋肉の使い方や悪習癖(口呼吸・舌の位置異常・指しゃぶり・異常な嚥下癖など)が関与しています。
2. MFTの主な目的
- 舌の正しい位置を習慣化する(スポットの獲得)
- 鼻呼吸を促進し、口呼吸を防ぐ
- 口唇閉鎖を意識し、唇の筋力を強化する
- 異常な嚥下癖(逆嚥下)を改善し、正常な飲み込みを促す
- 顎の発育を適切に誘導し、歯列の幅を確保する
3. 口腔筋機能療法が有効な症例
MFTは、以下のような悪習癖によって引き起こされる不正咬合に有効です。
- 口呼吸による上顎前突(出っ歯)
- 舌突出癖による開咬
- 唇を噛む癖による下顎前突(受け口)
- 頬の筋肉の過緊張による狭窄歯列弓
- 指しゃぶりや舌癖による歯列不正
マイオブレースとは?
1. マイオブレースの基本構造
マイオブレースは、シリコンまたはポリウレタン素材で作られた筋機能矯正装置であり、舌の正しい位置付けや口唇の閉鎖、鼻呼吸の習慣化を促す設計がされています。主に、夜間と日中1時間程度の装着を推奨されます。
2. マイオブレースの目的
- 口呼吸を改善し、鼻呼吸を習慣化する
- 舌の正しいポジションを確立し、正常な嚥下を促す
- 顎の発育を促進し、歯列のスペースを確保する
- 頬や唇の筋肉のバランスを整え、歯並びを改善する
3. マイオブレースの適応症例
マイオブレースは、主に成長期の小児矯正(4歳~12歳)に適用され、以下のような症例に有効です。
- 軽度~中等度の叢生(歯のガタつき)
- 開咬や過蓋咬合
- 上顎前突(出っ歯)や下顎前突(受け口)
- 顎の成長不足による歯列狭窄
- 指しゃぶりや舌突出癖のある子ども
マイオブレースの治療の流れ
1. 精密診断と治療計画の立案
- 口腔内スキャナー(iTeroなど)による歯列のスキャン
- セファロ分析(顎顔面の成長パターンの評価)
- 口腔機能の評価(舌の位置、口唇閉鎖力、嚥下パターンなど)
2. マイオブレースの装着と指導
- 専用のトレーナー(マイオブレース)を装着し、正しい舌の位置と呼吸法をトレーニング
- 毎日夜間+日中1時間の装着を推奨
- 口腔筋機能トレーニング(MFT)を併用
3. 定期的なチェックとトレーニング
- 1ヶ月に1回のチェックを行い、筋機能の評価と装置の適合を確認
- 舌の筋力強化、正しい飲み込み方、口唇閉鎖のトレーニングを継続
4. 治療完了と保定
- 顎の成長が安定し、歯列のスペースが確保されたら装置を卒業
- 必要に応じて追加の矯正治療(ワイヤー矯正・マウスピース矯正など)を検討
マイオブレースのメリットとデメリット
メリット
- 成長を利用して自然に歯並びを整える
- 顎の発育を正常化し、抜歯のリスクを軽減。
- 歯に強い力を加えず、痛みが少ない
- ワイヤー矯正のような歯の移動による痛みが少ない。
- 口呼吸の改善による全身の健康効果
- 正しい呼吸習慣により、アレルギーや睡眠時無呼吸症候群のリスクを低減。
- 取り外し可能で日常生活に影響が少ない
- 食事や歯磨き時に取り外せるため、虫歯リスクが低い。
デメリット
- 適応症例が限られる
- 重度の歯列不正には単独では対応できない。
- 装着時間を守らないと効果が出にくい
- 患者の協力が必要で、継続できないと治療効果が得られにくい。
- 装着初期は違和感がある
- 口腔筋のトレーニングが必要なため、慣れるまで時間がかかる。
まとめ
マイオブレースを用いた口腔筋機能療法は、成長期の子どもに適した予防的な矯正治療であり、口呼吸や舌癖などの悪習癖を改善しながら、歯列と顎の正常な発育を促すことができます。
ただし、全ての不正咬合に対応できるわけではないため、専門の矯正歯科医による精密な診断が重要です。歯並びや口腔機能に不安がある場合は、早めに矯正歯科で相談することをおすすめします。