アンカースクリュー

アンカースクリュー(矯正用アンカースクリュー、TAD: Temporary Anchorage Device)は、矯正治療において歯を効率的に動かすための補助装置です。従来の矯正治療では、歯を動かす際に隣接する歯を固定源(アンカー)として利用することが一般的でした。しかし、この方法では固定源となる歯もわずかに動いてしまうことがあり、治療計画通りの歯の移動が難しい場合がありました。

アンカースクリューは、歯槽骨に小さなスクリュー(ネジ)を埋入し、それを固定源とすることで、強力かつ精密な歯の移動が可能になります。本ページでは、アンカースクリューの基本的な役割、メリット・デメリット、適応症例、施術の流れ、メンテナンス方法について詳しく解説します。

アンカースクリューの役割

従来の固定源とアンカースクリューの違い

矯正治療では、歯を動かすために固定源が必要です。従来の方法では、奥歯(大臼歯)や顎全体の骨を固定源としていましたが、以下のような問題点がありました。

  • 固定源となる歯が動いてしまう(アンカーの喪失)
  • 治療計画通りに歯が動かない
  • ゴム掛け(顎間ゴム)を使用する必要があるため、患者の協力が不可欠

アンカースクリューを使用することで、これらの問題を解決し、より精密で効率的な歯の移動が可能になります。

アンカースクリューのメリット・デメリット

メリット

強固な固定源として機能する
→ 動かしたくない歯を固定し、目的の歯のみを正確に移動できる。

治療期間の短縮が可能
→ 効率的な歯の移動が可能となるため、従来の矯正方法よりも治療期間が短縮されることが多い。

非抜歯矯正の可能性を高める
→ スペース不足による抜歯の必要性が減少することがある。

顎間ゴム(ゴム掛け)の必要性が減少
→ 従来の方法では顎間ゴムを使用する必要があったが、アンカースクリューを用いることでゴム掛けを最小限に抑えられる。

難症例にも対応可能
→ 開咬、過蓋咬合、歯の圧下(intrusion)など、通常の矯正治療では困難な歯の動きが可能。

デメリット

外科処置が必要
→ 局所麻酔を用いて骨にスクリューを埋入するため、外科的処置が必要となる。

歯肉炎や感染のリスク
→ メンテナンスが不十分だと、炎症や感染が起こることがある。

スクリューの脱落リスク
→ 個人差はあるが、アンカースクリューが歯槽骨に定着せずに脱落することがある(脱落率約10~20%)。

一部の患者には適応できない
→ 骨が極端に薄い場合や、重度の歯周病がある場合は使用できないことがある。

アンカースクリューが適応される症例

アンカースクリューは、特に以下の症例で有効とされています。

1. 上顎前突(出っ歯)

  • 上の前歯を大きく後方へ移動させる際に使用
  • 抜歯矯正の際の固定源として利用

2. 下顎前突(受け口)

  • 下の歯列を後方へ移動させる場合に利用

3. 開咬(オープンバイト)

  • 奥歯を圧下(intrusion)し、咬合を安定させる

4. 過蓋咬合(ディープバイト)

  • 前歯を圧下し、正常な咬合へ誘導

5. 部分矯正や臼歯の遠心移動

  • 特定の歯のみを移動させる際に使用

アンカースクリューの施術の流れ

1. 事前診査と治療計画の策定

  • 口腔内診査、レントゲン・CT撮影を行い、スクリューの埋入位置を決定。
  • 矯正治療全体の計画を立てる。

2. 局所麻酔の実施

  • 局所麻酔を施し、スクリュー埋入時の痛みを抑える。

3. スクリューの埋入(所要時間:5~10分)

  • 直径1.2~2.0mm、長さ6~12mm程度のチタン製スクリューを歯槽骨に埋入。
  • 縫合は不要で、即日から矯正治療に使用可能。

4. 矯正力の付与(数週間後)

  • スクリューの安定を確認後、ワイヤーやゴムを装着し、矯正力を加える。

5. 治療終了後のスクリュー除去

  • 矯正治療が完了したらスクリューを撤去(5分程度で完了)。

アンカースクリューのメンテナンス方法

1. 毎日の歯磨きを徹底

  • 軟らかい歯ブラシを使用し、スクリュー周囲の汚れをしっかり除去。

2. うがい薬の使用

  • 抗菌性のある洗口液(クロルヘキシジンなど)を使用すると、感染リスクを軽減できる。

3. 硬い食べ物を避ける

  • スクリューに強い力が加わると脱落のリスクがあるため、注意が必要。

4. 違和感や痛みがある場合はすぐに歯科医へ相談

  • スクリューの緩みや炎症の兆候がある場合、早めに対応することが重要。

まとめ

アンカースクリューは、矯正治療の効率を大幅に向上させる画期的な装置です。特に、強固な固定源を必要とする症例や、治療期間の短縮を希望する患者にとって有効な選択肢となります。

ただし、外科処置を伴うため、適応症例の選定や術後の管理が重要です。矯正治療を検討されている方は、アンカースクリューの利点とリスクを理解し、担当の矯正歯科医と十分に相談した上で治療を進めることをおすすめします。